契約の成立
01 AはBに対して、Aが所有する甲土地を1,000万円で売却した旨の申込みを郵便で令和7年7月1日に発信した(「本件申込み」という。)が、本件申込みがBに到達する前にAが死亡した。本件申込みが効力を失わない場合、Bが承諾の意思表示を発信した時点で甲土地の売買契約が成立する。
01 誤り 契約は、申込みに対して相手方が承諾をしたときに成立する。承諾は意思表示であり、意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずるところから、承諾の効力は、承諾の意思表示が申込者に到達した時に生ずる。そうであれば、契約は、承諾の意思表示が申込者に到達した時点で成立する。Bが承諾の意思表示を発信した時点で甲土地の売買契約が成立するものではない。
02 民法は、「隔地者間の契約は、承諾の通知を発した時に成立する。」旨を規定している。
02 誤り 「隔地者間の契約は、承諾の通知を発した時に成立する」旨の民法の規定はない。
03 AはBに対して、Aが所有する甲土地を1,000万円で売却した旨の申込みを郵便で令和7年7月1日に発信した(「本件申込み」という。)が、本件申込みがBに到達する前にAが死亡した。本件申込みが効力を失わない場合、本件申込みに承諾をなすべき期間及び撤回をする権利についての記載がなかったときは、Aの相続人は、本件申込みをいつでも撤回することができる。
03 誤り 承諾の期間を定めないでした申込みは、申込者が撤回をする権利を留保したときを除き、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない。よって、申込みに承諾をなすべき期間及び撤回をする権利についての記載がなかったときは、Aの相続人は、本件申込みをいつでも撤回することができるというものではない。
04 AはBに対して、Aが所有する甲土地を1,000万円で売却した旨の申込みを郵便で令和7年7月1日に発信した(「本件申込み」という。)が、本件申込みがBに到達する前にAが死亡した。Bが承諾の通知を発する前に、BがAの死亡を知ったとしても、本件申込みは効力を失わない。
04 誤り 申込者が申込みの通知を発した後に死亡した場合において、その相手方が承諾の通知を発するまでにその事実が生じたことを知ったときは、その申込みは、その効力を有しない。よって、Bが承諾の通知を発する前に、BがAの死亡を知ったときは、本件申込みは効力を失う。
05 AはBに対して、Aが所有する甲土地を1,000万円で売却した旨の申込みを郵便で令和7年7月1日に発信した(「本件申込み」という。)が、本件申込みがBに到達する前にAが死亡した。Aが、本件申込みにおいて、自己が死亡した場合には申込みの効力を失う旨の意思表示をしていたときには、BがAの死亡を知らないとしても本件申込みは効力を失う。
05 正しい 申込者が申込みの通知を発した後に死亡した場合において、申込者がその事実が生じたとすればその申込みは効力を有しない旨の意思を表示していたときは、その申込みは、その効力を有しない。よって、Aが、本件申込みにおいて、自己が死亡した場合には申込みの効力を失う旨の意思表示をしていたときには、BがAの死亡を知らないとしても、本件申込みは効力を失う。
公序良俗違反の契約
06 公の秩序に反する法律行為であっても、当事者が納得して合意した場合には、その法律行為は有効である。
06 誤り 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。当事者が納得して合意した場合であっても、公の秩序に反する法律行為は無効である。
同時履行の抗弁権
07 Aを売主、Bを買主として甲建物の売買契約が締結された。Bは、本件代金債務の履行期が過ぎた場合であっても 、特段の事情がない限り、甲建物の引渡しに係る 履行の提供を受けていないことを理由として、Aに対して代金の支払を拒むことができる。
07 正しい 双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる(同時履行の抗弁権)。履行遅滞に陥っている債務者であっても、他方当事者の債務の履行期が到来すれば、当該遅滞にある債務者は遅滞債務の履行と他方当事者の債務の履行の同時履行を主張することができる(最判S34.5.14)。よって、Bは、代金債務の履行期が過ぎ履行遅滞にある場合であっても、甲建物の引渡しとの同時履行を主張して代金の支払を拒むことができる。
危険負担
08 Aを注文者、Bを請負人とする請負契約の目的が建物の増築である場合、Aの失火により当該建物が焼失し増築できなくなったときであっても、Bによる本件契約に基づく未履行部分の仕事完成債務は当然には消滅しない。
08 正しい 債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができないが、債務自体は消滅しない。よって、建物が焼失し増築できなくなったときであっても、Bによる未履行部分の仕事完成債務は当然には消滅しない。
09 AがBに対してA所有の甲建物を令和7年7月1日に①売却又は②賃貸した場合において、①と②の契約締結後、甲建物の引渡し前に、甲建物がEの放火で全焼したとき、①ではBはAに対する売買代金の支払を拒むことができ、②ではBとAとの間の賃貸借契約は経了する。
09 正しい 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。①において、甲建物がEの放火で全焼したことは、当事者双方の責めに帰することができない事由によって売主であるAが債務を履行することができなくなった場合にあたる。よって、債権者であるBは、反対債務、すなわち代金の支払を拒むことができる。賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃貸借は、これによって終了する。ここより、②において、甲建物がEの放火で全焼し、Bにおいて甲建物の使用及び収益をすることができなくなった場合には、BとAとの間の賃貸借契約は経了する。
契約の解除
10 債務不履行に対して債権者が相当の期間を定めて履行を催告してその期間内に履行がなされない場合であっても、催告期間が経過した時における債務不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、債権者は契約の解除をすることができない。
10 正しい 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。
11 土地の売買契約において、売主が負担した当該土地の税金相当額を買主が償還する付随的義務が定められ、買主が売買代金を支払っただけで税金相当額を償還しなかった場合、特段の事情がない限り、売主は当該売買契約の解除をすることができない。
11 正しい 当事者が契約をなした主たる目的の達成に必須的でない附随的義務の履行を怠ったに過ぎないような場合には、特段の事情の存しない限り、解除することができない(最判S36.11.21)。土地の売買契約において、売主が負担した当該土地の税金相当額を買主が償還する付随的義務は、当事者が契約をなした主たる目的の達成に必須的でない附随的義務といえ、買主がこの履行を怠った場合、特段の事情がない限り、売主は当該売買契約の解除をすることができない。
12 債務者が債務を履行しない場合であって、債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したときは、債権者は、相当の期間を定めてその履行を催告することなく、直ちに契約の解除をすることができる。
12 正しい 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したときは、債権者は、相当の期間を定めてその履行を催告することなく、直ちに契約の解除をすることができる。
13 Aを売主、Bを買主として甲土地の売買契約が締結された直後にAが死亡し、CがAを単独相続した。売買代金を受領したCが甲土地の引渡しを拒絶する意思を明確に表示したとしても、Bは、Cに対して相当の期間を定めた催告をしなければ、当該売買契約を解除することができない。
13 誤り 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。よって、Cは、Aの甲土地の引渡し債務を承継する。債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したときは、債権者は、催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。ここから、Cが甲土地の引渡しを拒絶する意思を明確に表示したとき、Bは、Cに対して催告をすることなく、本件契約を解除することができる。
14 債務者が債務を履行しない場合であっても、債務不履行について債務者の責めに帰すべき事由がないときは付随的義務の不履行となり、特段の事情がない限り、債権者は契約の解除をすることができない。
14 誤り 債務不履行を理由に契約の解除をするにあたっては、当該債務不履行に債務者の責めに帰すべき事由があるか否かを問わない。よって、債務者が債務を履行しない場合、債務不履行について債務者の責めに帰すべき事由がないことを理由に解除をすることができないというものではない。
15 AがBに対してA所有の甲建物を令和7年7月1日に①売却又は②賃貸した場合において、①と②の契約が解除されたとき、①ではBは甲建物を使用収益した利益をAに償還する必要があるのに対し、②では将来に向かって解除の効力が生じるのでAは解除までの期間の賃料をBに返還する必要はない。
15 正しい 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。このとき、目的物の引渡を受けていた買主は、原状回復義務に基づく一種の不当利得返還義務として、解除までの間目的物を使用収益して得た利益を売主に償還すべき義務を負う(最判S34.9.22)。ここから、①において売買契約が解除された場合、Bは甲建物を使用収益した利益をAに償還する必要がある。一方、②の賃貸借の解除をした場合には、その解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる。そこで、解除までに生じた効果は、解除によって失効しない。ここから、②において、Aが解除までの期間に収受した賃料は有効な賃貸借の効果に基づくものであり、解除しても、Bに返還する必要はない。
贈 与
16 Aを贈与者、Bを受贈者とするA所有の甲建物の負担付贈与契約が書面によらずになされた場合、Aは、甲建物の引渡し及び所有権移転登記の両方が終わるまでは、書面によらないことを理由に契約の解除をすることができる。
16 誤り 書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。書面によらない不動産の贈与において、所有権の移転があっただけでは履行を終ったものとはいえないが、その占有の移転があったときに履行を終ったものと解すべきである(最判S31.1.27)。また、不動産の所有権移転登記がなされたときは、その引渡の有無を問わず、履行が終ったものと解すべきである(最判S40.3.26)。ここより、Aは、甲建物の引渡し又は所有権移転登記のいずれかをすれば、履行を終えたといえ、贈与契約の解除をすることができなくなる。甲建物の引渡し及び所有権移転登記の両方が終わるまでは、書面によらないことを理由に契約の解除をすることができるというものではない。
17 Aを贈与者、Bを受贈者とするA所有の甲建物の負担付贈与契約については、Aは、その負担の限度において、売主と同じく担保責任を負う。
17 正しい 負担付贈与については、贈与者は、その負担の限度において、売主と同じく担保の責任を負う。
18 Aを売主、Bを買主とするA所有の甲建物の売買契約については、Bの債務不履行を理由としてAに解除権が発生する場合があるが、Aを贈与者、Bを受贈者とするA所有の甲建物の負担付贈与契約については、Bの負担の不履行を理由としてAに解除権が発生することはない。
18 誤り 負担付贈与については、その性質に反しない限り、双務契約に関する規定が準用される。双務契約において、当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。ここから、受贈者の負担の不履行が軽微とはいえない場合は、贈与者は負担付贈与契約の解除をすることができる。よって、Bの負担の不履行を理由としてAに解除権が発生することはないとはいえない。
売買一般
19 Aを売主、Bを買主として、A所有の甲自動車を50万円で売却する契約が締結された。甲自動車について、第三者CがA所有ではなくC所有の自動車であると主張しており、Bが所有権を取得できないおそれがある場合、Aが相当の担保を供したときを除き、BはAに対して、売買代金の支払を拒絶することができる。
19 正しい 売買の目的について権利を主張する者があることにより、買主がその買い受けた権利の全部を取得することができないおそれがあるときは、買主は、代金の全部の支払を拒むことができる。ただし、売主が相当の担保を供したときは、この限りでない。よって、甲自動車について、第三者Cが所有権を主張し、Bが所有権を取得できないおそれがある場合、Aが相当の担保を供したときを除き、BはAに対して、売買代金の支払を拒絶することができる。
20 Aを売主、Bを買主として甲土地の売買契約が締結された直後にAが死亡し、CがAを単独相続した。Bは、売買代金が支払い済みだったとしても、甲土地の所有権移転登記を備えなければ、Cに対して甲土地の引渡しを請求することはできない。
20 誤り 売買契約において所有権の移転時期が定められていないときは、売買契約が締結されれば、別段の合意又は特別の事情の存在しない限り、売主から買主への目的物の所有権移転効果が発生する(最判S33.6.20)。ここより、売買契約の締結により、Bは、甲土地の所有権を取得する。買主は、売主及びその相続人に対し、登記なしに、売買による所有権の取得を対抗することができる。そして、買主は、売買目的物につき、取得した所有権に基づき物権的返還請求権により目的物の引渡しを請求することができる(大判S3.10.16)。以上より、Bは、甲土地の所有権移転登記を備えていなくても、Cに対して甲土地の引渡しを請求することができる。また、売買契約により、買主が登記を備えたか否かにかかわらず、売主は目的物の引渡し債務を負担する。相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継するところから、CはAの甲土地の引渡し債務を承継する。ここからも、Bは、甲土地の所有権移転登記を備えていなくても、Cに対して甲土地の引渡しを請求することができる。
21 他人が所有している土地を目的物にした売買契約は無効であるが、当該他人がその売買契約を追認した場合にはその売買契約は有効になる。
21 誤り 他人の権利を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。これは、他人の権利の売買も有効であることを前提とする。よって、他人が所有している土地を目的物にした売買契約も無効ではなく、有効である。当該他人がその売買契約を追認した場合に有効になるというものではない。
22 宅地建物取引業者ではないBが購入した目的物が第三者Cの所有物であり、宅地建物取引業者ではないAが売買契約締結時点でそのこと知らなかった場合には、Aは損害を賠償せずに売買契約を解除することができる。
22 誤り 他人の権利の売買も有効ある。有効な売買契約において、当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方は売買契約を解除することができる。よって、売主Aは、Bが債務を履行しない場合に売買契約を解除することができるのであり、売買契約締結時点で目的物が第三者の所有物であることを知らなかったということで売買契約を解除することはできない。
契約内容不適合責任(担保責任)
23 事業者ではないAが所有し居住している建物につきAB間で売買契約を締結するに当たり、Aは建物引渡しから3か月に限り契約内容不適合責任を負う旨の特約を付けたが、売買契約締結時点において当該建物の構造耐力上主要な部分が契約内容に適合していなかった。Aはそのことを知っていたがBに告げず、Bはそのことを知らなかった。AB間の売買をBと媒介契約を締結した宅地建物取引業者Cが媒介していた場合には、BはCに対して当該契約内容不適合責任を追及することができる。
23 誤り 契約内容不適合責任は、売買契約において売主が負う責任である。よって、買主が契約内容不適合責任を追及することができる相手は売主である。売買を媒介した宅建業者に対し、契約内容不適合責任を追及することはできない。
24 Aを売主、Bを買主として、A所有の甲自動車を50万円で売却する契約が締結された。Bが甲自動車の引渡しを受けたが、甲自動車のエンジンに契約の内容に適合しない欠陥があることが判明した場合、BはAに対して、甲自動車の修理を請求することができる。
24 正しい 引き渡された目的物が品質に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補による履行の追完を請求することができる。よって、甲自動車のエンジンに契約の内容に適合しない欠陥があることが判明した場合、BはAに対して、甲自動車の修理を請求することができる。
25 売買契約の目的物が品質に関して契約の内容に適合しない場合において、当該契約不適合が売主及び買主のいずれの責めにも帰することができない事由によるものであるとき、買主は、履行の追完請求権を行使することはできない。
25 誤り 契約不適合が売主及び買主のいずれの責めにも帰することができない事由によるものであっても、買主は、履行の追完請求権を行使することができる。
26 Aを売主、Bを買主として、A所有の甲自動車を50万円で売却する契約が締結された。Bが甲自動車の引渡しを受けたが、甲自動車に契約の内容に適合しない修理不能な損傷があることが判明した場合、BはAに対して、売買代金の減額を請求することができる。
26 正しい 引き渡された目的物が品質に関して契約の内容に適合しないものであるときで、履行の追完が不能であるとき、買主は、履行の追完の催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。よって、甲自動車に修理不能な損傷があることが判明した場合、BはAに対して、売買代金の減額を請求することができる。
27 売買契約の目的物が品質に関して契約の内容に適合しない場合において、当該契約不適合が売主及び買主のいずれの責めにも帰することができない事由によるものであるとき、買主は、代金の減額請求権を行使することはできない。
27 誤り 契約不適合が売主及び買主のいずれの責めにも帰することができない事由によるものであっても、買主は、代金の減額請求権を行使することができる。
28 売買契約の目的物が品質に関して契約の内容に適合しない場合において、当該契約不適合が売主及び買主のいずれの責めにも帰することができない事由によるものであるとき、買主は、損害賠償請求権を行使することはできない。
28 正しい 損害賠償請求権が認められるためには、契約内容不適合につき売主の帰責事由が必要である。よって、契約不適合が売主及び買主のいずれの責めにも帰することができない事由によるものであるときには、買主は、損害賠償請求権を行使することはできない。
29 事業者ではないAが所有し居住している建物につきAB間で売買契約を締結するに当たり、Aは建物引渡しから3か月に限り契約内容不適合責任を負う旨の特約を付けたが、売買契約締結時点において当該建物の構造耐力上主要な部分が契約内容に適合していなかった。Aはそのことを知っていたがBに告げておらず、Bはそのことを知らなかった。BがAに修補を請求したとき、Aの修補が不十分なものであれば、それが軽微なものであっても、Bは、売買契約を解除することができる。
29 誤り 引き渡された目的物が品質に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補による履行の追完を請求することができる。そこで、Bは、Aに対し修補を請求することができる。当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。ここより、Aの修補が不十分であるとき、修補債務の不履行といえるが、それが軽微であるときは、Bは、売買契約の解除をすることはできない。
30 Aを売主、Bを買主として、A所有の甲自動車を50万円で売却する契約が締結された。Bが引渡しを受けた甲自動車が故障を起こしたときは、修理が可能か否かにかかわらず、BはAに対して、修理を請求することなく、売買契約の解除をすることができる。
30 誤り 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ここから、修理が可能である場合には、Bは、履行の催告として、相当期間を定めて修理を請求し、その期間内に履行がないときに契約の解除をすることができるのであり、修理が可能か否かにかかわらず、修理を請求することなく、契約の解除をすることができものではない。
31 売買契約の目的物が品質に関して契約の内容に適合しない場合において、当該契約不適合が売主及び買主のいずれの責めにも帰することができない事由によるものであるとき、買主は、契約の解除権を行使することはできない。
31 誤り 契約不適合が売主及び買主のいずれの責めにも帰することができない事由によるものであっても、買主は、契約の解除権を行使することができないというものではない。
32 事業者ではないAが所有し居住している建物につきAB間で売買契約を締結するに当たり、Aは建物引渡しから3か月に限り契約内容不適合責任を負う旨の特約を付けたが、売買契約締結時点において当該建物の構造耐力上主要な部分が契約内容に適合していなかった。Aはそのことを知っていたがBに告げておらず、Bはそのことを知らなかった。Bが引き渡された建物が契約の内容に適合していないことを理由にAに対して損害賠償請求をすることができるのは、引き渡された建物が契約の内容に適合していないことを理由に売買契約を解除することができない場合に限られる。
32 誤り Bは、契約内容不適合責任の追及としてAに対し損害賠償の請求ができる。一方、契約内容不適合責任の追及としての売買契約の解除は、できる場合とできない場合がある。ただ、解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。よって、Bは、売買契約の解除ができる場合、解除とともに損害賠償の請求ができる。売買契約を解除することができない場合に限り損害賠償請求をすることができるというものではない。
33 目的物の引渡しの時点で目的物が品質に関して契約の内容に適合しないことを宅地建物取引業者ではないAが知っていた場合には、当該不適合に関する請求権が消滅時効にかかっていない限り、宅地建物取引業者ではないBはAの担保責任を追及することができる。
33 正しい 売主が品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。ここより、目的物の引渡しの時点で目的物が品質に関して契約の内容に適合しないことをAが知っていた場合には、Bが不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しなかったとしても、当該不適合に関する請求権が消滅時効にかかっていない限り、BはAの担保責任を追及することができる。
34 Aを売主、Bを買主とする甲土地の売買契約において、甲土地の実際の面積が本件契約の売買代金の基礎とした面積より少なかった場合、Bはそのことを知った時から2年以内にその旨をAに通知しなければ、代金の減額を請求することができない。
34 誤り 売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、契約内容不適合責任を追及することができなくなるという除斥期間がある。しかし、数量又は権利に係る契約内容不適合については、この除斥期間はない。よって、Bはそのことを知った時から2年以内にその旨をAに通知しなければ、代金の減額を請求することができないということはない。
35 事業者ではないAが所有し居住している建物につきAB間で売買契約を締結するに当たり、Aは建物引渡しから3か月に限り契約内容不適合責任を負う旨の特約を付けたが、売買契約締結時点において当該建物の構造耐力上主要な部分が契約内容に適合していなかった。Aはそのことを知っていたがBに告げておらず、Bはそのことを知らなかった。Bが当該契約の内容に適合していないことを建物引渡しから1年が経過した時に知ったとしても、その旨をその知った時から1年内に通知すれば、Bは、契約内容不適合責任に基づく損害賠償請求権を、それが時効消滅するまでの間、行使することができる。
35 正しい 売主は、契約内容不適合責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実については、その責任を免れることができない。契約内容不適合責任に基づく損害賠償請求権について、買主が契約内容不適合を知った時から1年内にその旨を売主に通知すれば、損害賠償請求権が時効により消滅するまでは行使することができる。ここより、建物引渡しから3か月に限り契約内容不適合責任を負う旨の特約、つまり引渡しから3か月を過ぎれば契約内容不適合責任を負わない旨の特約を付けたとしても、Aが契約内容不適合を知りながらBに告げず、Bがそのことを知らなかったときは、当該特約にかかわらず、Bは、Aに通知すれば、契約内容不適合責任に基づく損害賠償請求権を、それが時効消滅するまでの間、行使することができる。
手 付
36 宅地建物取引業者ではないBが宅地建物取引業者ではないAに対して手付を交付した場合、Aは、目的物を引き渡すまではいつでも、手付の倍額を現実に提供して売買契約を解除することができる。
36 誤り 買主が売主に手付を交付したときは、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。ここから、Aは、目的物の引渡し前であっても、Bが履行に着手した後は、手付による解除はできない。よって、目的物を引き渡すまではいつでも、手付の倍額を現実に提供して売買契約を解除することができるとはいえない。
37 Aを売主、Bを買主とするA所有の甲建物の売買契約において、Bが手付を交付し、履行期の到来後に代金支払の準備をしてAに履行の催告をした場合、Aは、手付の倍額を現実に提供して契約の解除をすることができる。
37 誤り 買主が売主に手付を交付したときは、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その買主が契約の履行に着手した後は、この限りでない。履行期到来後、買主が代金をすぐ支払えるように準備して、売主に履行の催促をしたときは、履行の着手があったといえる(最判S26.11.15)。よって、Bが代金支払の準備をしてAに履行の催告をした場合、Aは、手付の倍額を現実に提供しても契約の解除をすることはできない。
買戻し
38 売買契約の締結と同時に、宅地建物取引業者ではないAが目的物を買い戻すことができる旨の特約をする場合、買戻しについて期間の合意をしなければ、買戻しの特約自体が無効となる。
38 誤り 買戻し特約にあっては、必ず買戻しの期間を定めなければならないというものではない。つまり、買戻し期間を定めない買戻し特約も有効であり、無効ではない。