意思能力制度
01 意思能力を有しないときに行った不動産の売買契約は、後見開始の審判を受けているか否かにかかわらず効力を有しない。
01 正しい 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。ここより、意思能力を有しないときに行った不動産の売買契約は、後見開始の審判を受けているか否かにかかわらず効力を有しない。
02 営業を許された未成年者が、その営業に関する意思表示をした時に意思能力を有しなかった場合は、その法律行為は無効である。
02 正しい 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。よって、営業を許された未成年者が、その営業に関する意思表示をした時に意思能力を有しなかった場合は、その法律行為は無効である。
未成年者
03 18歳の者は、携帯電話サービスの契約や不動産の賃貸借契約を1人で締結しても、18歳であることを理由に当該契約を取り消すことができる。
03 誤り 18歳をもって成年とされる。よって、18歳の者は、未成年者ではなく、その時点で、携帯電話サービスの契約や不動産の賃貸借契約を締結するにあたっては、1人で締結することができ、締結した契約について18歳であることを理由に取り消すことはできない。
04 養育費は、子供が未成熟であって経済的に自立することを期待することができない期間を対象として支払われるものであるから、子供が成年に達したときは、当然に養育費の支払義務が終了する。
04 誤り 養育費は、子供が未成熟であって経済的に自立することを期待することができない期間を対象として支払われるものといえるが、ここに未成熟とは、経済的に自ら自立してみずから生活費を獲得することを期待することが適当でない状態にある子であり、年齢により形式的に判断さるべきではない。よって、成年に達した子供であってもなお未成熟子に該当する場合があり、子供が成年に達したときに、当然に養育費の支払義務が終了するとはいえない。
05 未成年者に対して親権を行う者がないときは、家庭裁判所は、検察官の請求によって、親族の中から未成年後見人を選任する。
05 誤り 未成年者に対して親権を行う者がないときは、家庭裁判所は、未成年被後見人又はその親族その他の利害関係人の請求によって、未成年後見人を選任する。検察官には、未成年後見人の選任請求権はなく、検察官の請求によって未成年後見人が選任されることはない。また、家庭裁判所は、未成年被後見人の年齢、心身の状態並びに生活及び財産の状況、未成年後見人となる者の職業及び経歴並びに未成年被後見人との利害関係の有無(未成年後見人となる者が法人であるときは、その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と未成年被後見人との利害関係の有無)、未成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮して未成年後見人を選任する。よって、親族の中から選任しなければならないというものではない。
06 未成年者に対して親権を行う者がないときは、家庭裁判所は、検察官の請求によって、親族の中から未成年後見人を選任する。
06 誤り 未成年者に対して親権を行う者がないときは、家庭裁判所は、未成年被後見人又はその親族その他の利害関係人の請求によって、未成年後見人を選任する。家庭裁判所は、未成年被後見人の年齢、心身の状態並びに生活及び財産の状況、未成年後見人となる者の職業及び経歴並びに未成年被後見人との利害関係の有無(未成年後見人となる者が法人であるときは、その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と未成年被後見人との利害関係の有無)、未成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮して未成年後見人を選任する。親族の中から選任しなければならないというものではない。
07 令和4年4月1日からは、成年年齢が18歳となったため、18歳の者は、年齢を理由とする後見人の欠格事由に該当しない。
07 正しい 未成年者は、後見人になることができない。ただ、令和4年4月1日からは、成年年齢が18歳となったため、18歳の者は、年齢を理由とする後見人の欠格事由に該当しない。
08 後見人は、正当な事由があるときは、後見監督人の許可を得て、その任務を辞することができる。
08 誤り 後見人は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。後見監督人の許可を得て、その任務を辞することができるというものではない。
09 未成年者Aが、法定代理人Bの同意を得ずに、Cから甲建物を買い受ける契約を締結した。当該売買契約締結時にAが未成年者であることにつきCが善意無過失であった場合、Bは、Aの制限行為能力を理由として、当該売買契約を取り消すことはできない。
09 誤り 未成年者が法定代理人の同意を得ずに行った法律行為は、取り消すことができる。このとき、当該法律行為の相手方が未成年者であることにつき善意無過失であれば取り消すことができなくなるものではない。よって、Aが未成年者であることにつきCが善意無過失であった場合でも、Bは、Aの制限行為能力を理由として、本件売買契約を取り消すことができる。
10 民法は、「未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。」旨を規定している。
10 正しい 民法5条1項は、「未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。」と規定する
11 営業を許された未成年者が、その営業に関するか否かにかかわらず、第三者から法定代理人の同意なく負担付贈与を受けた場合には、法定代理人は当該行為を取り消すことができない。
11 誤り 数種の営業を許された未成年者であっても、その営業に関しない行為については、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為以外の行為を法定代理人の同意なく行えば、法定代理人は当該行為を取り消すことができる。負担付贈与にあっては、受贈者が一定の義務を負うところから、単に権利を得る行為とはいえない。よって、営業を許された未成年者が、法定代理人の同意なく受けた負担付贈与について、その営業に関するか否かにかかわらず、法定代理人は当該行為を取り消すことができないとはいえない。
成年被後見人
12 成年後見人は、家庭裁判所の許可を得なければ、成年被後見人が所有する成年被後見人の居住の用に供する建物への第三者の抵当権の設定を成年被後見人を代理して行うことはできない。
12 正しい 成年後見人は、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。ここから、成年後見人は、成年被後見人が所有する成年被後見人の居住の用に供する建物への第三者の抵当権の設定については、家庭裁判所の許可を得なければ代理して行うことができない。
13 成年後見人は、家庭裁判所の許可を得なければ、成年被後見人が所有する倉庫についての第三者との賃貸借契約の解除を成年被後見人を代理して行うことはできない。
13 誤り 成年後見人は、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。ここから、成年後見人は、成年被後見人が所有する倉庫についての第三者との賃貸借契約の解除については、家庭裁判所の許可を得ることなく代理して行うことができる。
14 成年後見人は、家庭裁判所の許可を得なければ、成年被後見人が所有するオフィスビルへの第三者の抵当権の設定を成年被後見人を代理して行うことはできない。
14 誤り 成年後見人は、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。ここから、成年被後見人が所有するオフィスビルへの第三者の抵当権の設定については、家庭裁判所の許可を得ることなく代理して行うことができる。
15 成年後見人は、家庭裁判所の許可を得なければ、成年被後見人が所有する乗用車の第三者への売却を成年被後見人を代理して行うことはできない。
15 誤り 成年後見人は、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。ここから、成年後見人は、成年被後見人が所有する乗用車の第三者への売却については、家庭裁判所の許可を得ることなく代理して行うことができる。
16 成年後見人は、後見監督人がいる場合には、後見監督人の同意を得なければ、成年被後見人の法律行為を取り消すことができない。
16 誤り 制限行為能力者の法定代理人は、行為能力の制限によって取り消すことができる行為を取り消すことができる。ここより、成年被後見人の法定代理人である成年後見人は、成年被後見人の法律行為を取り消すことができる。後見監督人がいる場合には、成年後見人は、成年被後見人に代わって営業又は不動産の売買等の一定の行為をする場合には後見監督人の同意を要するが、行為能力の制限を理由に成年被後見人の行為を取り消すに当たっては、後見監督人の同意を要しない。よって、成年後見人は、後見監督人の同意を得ることなく、成年被後見人の法律行為を取り消すことができる。
17 相続の放棄は相手方のない単独行為であるから、成年後見人が成年被後見人に代わってこれを行っても、利益相反行為となることはない。
17 誤り 相続の放棄は相手方のない単独行為であるが、たとえば、成年被後見人と成年後見人が共同相続人となる場合、成年後見人が成年被後見人の相続の放棄をすることは、成年被後見人が相続人でなくなることで成年後見人にとって相続分が増加するという利益となり、利益相反行為となる。ここより、成年後見人が成年被後見人に代わって相続の放棄を行っても、利益相反行為となることはないとはいえない。
被保佐人
18 成年後見人は成年被後見人の法定代理人である一方で、保佐人は被保佐人の行為に対する同意権と取消権を有するが、代理権が付与されることはない。
18 誤り 家庭裁判所は、被保佐人のために特定の法律行為について保佐人に代理権を付与する旨の審判をすることができる。ここより、保佐人に代理権が付与されることはないとはいえない。成年後見人は成年被後見人の法定代理人である点、保佐人は被保佐人の行為に対する同意権と取消権を有する点は、正しい。
不在者の財産管理
19 不在者が財産の管理人を置かなかったときは、当該不在者の生死が7年間明らかでない場合に限り、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。
19 誤り 不在者がその財産の管理人を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。当該不在者の生死が7年間明らかでない場合に限り、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができるというものではない。
20 不在者が財産の管理人を置いた場合において、その不在者の生死が明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官から請求があったとしても管理人を改任することはできない。
20 誤り 不在者が管理人を置いた場合において、その不在者の生死が明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、管理人を改任することができる。
21 家庭裁判所により選任された不在者の財産の管理人は、保存行為として不在者の自宅を修理することができるほか、家庭裁判所の許可を得てこれを売却することができる。
21 正しい 不在者の財産の保存行為は、法定の不在者財産管理人の権限であるが、この法定権限を越える行為を必要とするときは、不在者財産管理人は、家庭裁判所の許可を得て、その行為をすることができる。ここより、家庭裁判所により選任された管理人は、保存行為として不在者の自宅を修理することができる。そして、不在者の自宅を売却することは法定権限を越えるものであるところから、家庭裁判所の許可を得てこれを売却することができる。
22 家庭裁判所により選任された不在者の財産の管理人は、不在者を被告とする建物収去土地明渡請求を認容した第一審判決に対して控訴を提起するには、家庭裁判所の許可が必要である。
22 誤り 不在者財産管理人は、不在者の財産の保存行為については、裁判所の許可なしにこれを行うことができる。不在者を被告とする建物収去土地明渡請求を認容した第一審判決に対し控訴を提起し、その控訴を不適法として却下した第二審判決に対し上告を提起することは、不在者の財産の現状を維持する行為として保存行為に該当するものであり、不在者財産管理人は、家庭裁判所の許可を得ることなしに、第一、二審判決に対する上訴を提起する権限を有するものというべきである(最判S47.9.1)。
失踪宣告
23 不在者Aが、家庭裁判所から失踪宣告を受けた。Aを単独相続したBは相続財産である甲土地をCに売却して登記も移転したが、その後、生存していたAの請求によって当該失踪宣告が取り消された。当該売買契約当時に、Aの生存について、B及びCが善意である場合に限り、Cは、当該売買契約に基づき取得した甲土地の所有権をAに対抗できる。
23 正しい 失踪宣告の取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。このとき、行為が契約であるときは、、契約当事者双方が善意であるときに限り、失踪宣告の取消しは当該契約の効力に影響を及ぼさない(大判S13.2.7)。ここより、Aの生存について、B及びCが善意である場合に限り、Cは、当該売買契約に基づき取得した甲土地の所有権をAに対抗できる。
錯誤による意思表示
24 Aを売主、Bを買主とする甲土地の売買契約が、Aの重大な過失による錯誤に基づくものであり、その錯誤が重要なものであるときは、Aは当該売買契約の無効を主張することができる。
24 誤り 意思表示に対応する意思を欠く錯誤に基づく意思表示は、取り消すことができることはあるが、錯誤を理由に無効となることはない。よって、錯誤を理由に、Aが無効を主張することができることはない。
25 Aは、自己所有の時価100万円の壺を10万円程度であると思い込み、Bに対し「手元にお金がないので、10万円で売却したい」と言ったところ、BはAの言葉を信じ「それなら10万円で購入する」と言って、AB間に売買契約が成立した。Aは、Bに対し、錯誤による取消しができる。
25 誤り Aが時価100万円の壺を10万円程度であると思い込み、10万円で売却したいとの申込みは、表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤に基づくものといえる。この錯誤に基づく意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。Aは、この事情を法律行為の基礎としたことを表示していない。よって、Aは、Bとの売買契約を錯誤を理由に取り消すことはできない。
26 Aは、自己所有の自動車を100万円で売却するつもりであったが、重大な過失によりBに対し「10万円で売却する」と言ってしまい、Bが過失なく「Aは本当に10万円で売るつもりだ」と信じて購入を申し込み、AB間に売買契約が成立した。Aは、Bに対し、錯誤による取消しができる。
26 誤り 意思表示は、意思表示に対応する意思を欠く錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。ただ、錯誤が表意者の重大な過失によるものであるときは、相手方が表意者に錯誤があることを知り、若しくは重大な過失によって知らなかったとき、又は相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたときを除き、取り消すことができない。Aが自動車を100万円で売却するつもりであったが10万円で売却すると言ってしまったことは、法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものにつき錯誤があったといえる。ただ、その錯誤はAの重大な過失によるものであり、Bが過失なくAは本当に10万円で売るつもりだと信じていたところから、Aに錯誤があることにつきBは善意無過失であり、かつ、Aと同一の錯誤に陥っていたとはいえないところから、Aは、Bとの売買契約を錯誤を理由に取り消すことはできない。
27 Aは、自己所有の腕時計を100万円で外国人Bに売却する際、当日の正しい為替レート(1ドル100円)を重大な過失により1ドル125円で計算して「8,000ドルで売却する」と言ってしまい、Aの錯誤について過失なく知らなかったBが「8,000ドルなら買いたい」と言って、AB間に売買契約が成立した。Aは、Bに対し、錯誤による取消しができる。
27 誤り 錯誤に基づく意思表示は、当該錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは取り消すことができる。もっとも、錯誤が表意者の重大な過失によるものであるときは、相手方が表意者に錯誤があることを知らず、又は重大な過失によって知らなかったときを除き、取り消すことができない。Aが為替レートについての錯誤により売買の申込みをしたことは法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要な錯誤による申し込みといえる。そして、Aにおいて錯誤につき重大な過失があり、かつ、BがAの錯誤について知らず、その知らなかったことにつきBに重大な過失がないところから、Aは、Bとの売買契約を錯誤を理由に取り消すことはできない。
28 AがBに甲土地を売却し、Bが所有権移転登記を備えた。Aの売却の意思表示が表示の錯誤に基づくものであって、Aに重大な過失がある場合であれば、AはBに対して、錯誤を理由に当該意思表示を取り消し甲土地の返還を請求することができることはない。
28 誤り 表示の錯誤による意思表示は、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであっても、表意者に重大な過失があれば取り消すことはできない。ただ、相手方において表意者に錯誤があることを知り、若しくは重大な過失によって知らなかったとき又は相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたときは、取り消すことができる。よって、Aは、重大な過失がある場合であっても、Bに対して、錯誤を理由に当該意思表示を取り消し甲土地の返還を請求することができることがあることになる。
29 Aは、自己所有の時価100万円の名匠の絵画を贋作だと思い込み、Bに対し「贋作であるので、10万円で売却する」と言ったところ、Bも同様に贋作だと思い込み「贋作なら10万円で購入する」と言って、AB間に売買契約が成立した。Aは、Bに対し、錯誤による取消しができる。
29 正しい Aが贋作だと思い込み、贋作であるので、10万円で売却するとの申込みは、法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤に基づくものである。このとき、その事情を法律行為の基礎とすることを表示していた場合で、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであり、当該錯誤につき表意者に重大な過失がないときに、取り消すことができる。ただ、表意者に重大な過失があるときであっても、相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたときは、なお錯誤を理由にその意思表示を取り消すことができる。Aは、贋作であるので、10万円で売却するといっており、法律行為の基礎とした事情を法律行為の基礎とすることを表示していたといえる。また、売買目的物につき真作を贋作と錯誤したことは、法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要な錯誤といえる。そして、BもAと同様、真作を贋作と錯誤している。よって、Aは、錯誤につき重大な過失がない場合はもとより、重大な過失がある場合でも、錯誤を理由にBとの売買契約を取り消すことができる。
30 AがBに甲土地を売却し、Bが所有権移転登記を備えた。Aの売却の意思表示が表示の錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものである場合、Aに重大な過失がなくても、Aは、Bから甲土地を買い受けた善意無過失のCに対して、錯誤を理由に当該意思表示の取消しを主張して、甲土地の返還を請求することはできない。
30 正しい 表示の錯誤による意思表示は、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであり、表意者に重大な過失がないときは取り消すことができる。ただ、この取消しをもって、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。よって、Aは、錯誤を理由に当該意思表示の取消しを主張して、善意無過失のCに対し甲土地の返還を請求することはできない。
詐欺・強迫による意思表示
31 詐欺による意思表示は取り消すことによって初めから無効であったとみなされるのに対し、強迫による意思表示は取り消すまでもなく無効である。
31 誤り 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。ここより、詐欺による意思表示に限らず、強迫による意思表示であっても、取り消すことにより初めから無効であったとみなされる。
32 AがBに甲土地を売却し、Bが所有権移転登記を備えた。AがBとの売買契約をBの詐欺を理由に取り消す前に、Bの詐欺について悪意のCが、Bから甲土地を買い受けて所有権移転登記を備えていた場合、AはCに対して、甲土地の返還を請求することができる。
32 正しい 詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することはできないが、悪意の第三者には対抗することができる。この悪意第三者への対抗にあたり登記を要しない。よって、Bは、Cが登記を備えていたとしても、Cが悪意であれば、Cに取消しを対抗することができ、甲土地の返還を請求することができる。
33 Aを売主、Bを買主として甲土地の売買契約が締結された直後にAが死亡し、CがAを単独相続した。当該売買契約が、Aの詐欺により締結されたものである場合、BはCに対して、当該売買契約の取消しを主張することができる。
33 正しい 詐欺による意思表示は、取り消すことができる。ただし、この取消しをもって善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。ここにいう第三者とは、詐欺による意思表示の当事者及びその包括承継人以外の者で、詐欺による意思表示によって生じた法律関係に対し、新たに別の法律原因に基づいて、詐欺による意思表示の取消しを主張する者と矛盾する権利あるいは利害関係に立つに至った者をいう。ここより、当事者の相続人は、第三者に該当しない。よって、BはCに対して、本件契約の取消しを主張することができる。
無効・取消し
34 未成年者Aが法定代理人Bの同意を得ずに締結したCから甲建物を買い受ける契約をAがBの同意を得ずに制限行為能力を理由として取り消した場合、Bは、自己が当該売買契約の取消しに同意していないことを理由に、Aの当該取消しの意思表示を取り消すことができる。
34 誤り 行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。ここより、未成年者は、法定代理人の同意なしに単独で取消権を行使することができる。よって、AがBの同意を得ずに制限行為能力を理由として本件売買契約を取り消した場合、Bは、取消しに同意していないことを理由に、Aの当該取消しの意思表示を取り消すことはできない。
35 民法は、「無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う。」旨を規定している。
35 正しい 民法121条の2は、「無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う。」と規定する。
36 未成年者Aが法定代理人Bの同意を得ずに締結したCから甲建物を買い受ける契約につき、取消しがなされないままAが成年に達した場合、当該売買契約についてBが反対していたとしても、自らが取消権を有すると知ったAは、当該売買契約を追認することができ、追認後は当該売買契約を取り消すことはできなくなる。
36 正しい 制限行為能力を理由に取り消すことができる行為について、取消しの原因となっていた状況が消滅した後、当該制限行為能力者であった者が、取消権を有することを知った後に、追認することができる。ここより、Aが成年に達したことで取消しの原因となっていた状況が消滅し、自らが取消権を有すると知ったAは、Bが反対していたとしても、本件売買契約を追認することができる。追認すれば、本件売買契約を取り消すことはできなくなる。
37 未成年者Aが法定代理人Bの同意を得ずに締結したCから甲建物を買い受ける契約につき、Bが追認しないまま、Aが成年に達する前にBの同意を得ずに甲建物をDに売却した場合、BがDへの売却について追認していないときでも、Aは制限行為能力を理由として、当該売買契約を取り消すことはできなくなる。
37 誤り 追認をすることができる時以後に、取り消すことができる行為について取り消すことができる行為によって取得した権利の全部の譲渡があったときは、追認をしたものとみなされ、取り消すことができなくなる。ここに追認をすることができる時とは、取消しの原因となっていた状況が消滅した時をいう。Aが成年に達する前はAはいまだ未成年者であり、取消しの原因となっていた状況は消滅していない。よって、Aが成年に達する前に甲建物をDに売却しても、追認をしたものとみなされず、Aは、Aは制限行為能力を理由として、Cとの売買契約を取り消すことができる。
期 間
38 期間の末日が日曜日、国民の祝日に関する法律に規定する休日その他の休日に当たるときは、その日に取引をしない慣習がある場合に限り、期間はその前日に満了する。
38 誤り 期間の末日が日曜日、国民の祝日に関する法律に規定する休日その他の休日に当たるときは、その日に取引をしない慣習がある場合に限り、期間は、その翌日に満了する。前日に満了するのではない。
39 令和7年10月17日午前10時に、引渡日を契約締結日から1年後とする不動産の売買契約を締結した場合、令和8年10月16日(日曜日、国民の祝日に関する法律に規定する休日その他の休日には当たらない。)が引渡日である。
39 誤り 引渡日を契約締結日から1年後とするということは、契約締結日から1年の期間は引き渡さず、この1年の期間が満了した日の翌日に引き渡すということである。年によって期間を定めたときは、その期間が午前零時から始まるときを除き、期間の初日は、算入しない。そして、年によって期間を定めたときは、その期間は、暦に従って計算する。このとき、年の初めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の年においてその起算日に応当する日の前日が末日となり、この末日の終了をもって満了する。そこで、契約の締結が令和7年10月17日午前10時であるとき、このときから1年間が満了する日は、起算日が令和7年10月18日となり、その最後の年である1年後の令和8年の応当日である令和8年10月18日の前日の10月17日となる。よって、この令和8年10月17日の翌日の令和8年10月18日が引渡日となる。
40 令和7年8月31日午前10時に、弁済期を契約締結の日から1か月後とする金銭消費貸借契約を締結した場合、令和7年9月30日(日曜日、国民の祝日に関する法律に規定する休日その他の休日には当たらない。)の終了をもって弁済期限となる。
40 正しい 弁済期を契約締結の日から1か月後とするということは、契約締結日から1か月の期間が満了するまでは弁済をする必要はなく、1か月の期間の満了をもって弁済期が到来するということである。月によって期間を定めたときは、その期間が午前零時から始まるときを除き、期間の初日は、算入しない。また、月によって期間を定めたときは、その期間は、日に換算して計算するのではなく、暦に従って計算する。このとき、月の初めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の月においてその起算日に応当する日の前日が末日となり、この末日の終了をもって満了する。そこで、契約の締結が令和7年8月31日午前10時であるとき、このときから1か月が満了する日は、起算日が令和7年9月1日であり、最後の月である1カ月後の10月の応当日である10月1日の前日の9月30日となる。よって、この9月30日の終了をもって弁済期限となる。言い換えれば、10月1日に弁済期が到来する。
41 令和7年5月30日午前10時に、代金の支払期限を契約締結日から1か月後とする動産の売買契約を締結した場合、令和7年7月1日(日曜日、国民の祝日に関する法律に規定する休日その他の休日には当たらない。)の終了をもって支払期限となる。
41 誤り 代金の支払期限を契約締結の日から1か月後とするということは、契約締結日から1か月の期間が満了するまでは代金を支払う必要はなく、1か月の期間の満了をもって支払期限が到来するということである。月によって期間を定めたときは、その期間が午前零時から始まるときを除き、期間の初日は、算入しない。また、月によって期間を定めたときは、その期間は、日に換算して計算するのではなく、暦に従って計算する。このとき、月の初めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の月においてその起算日に応当する日の前日が末日となり、この末日の終了をもって満了する。そこで、契約の締結が令和7年5月30日午前10時であるとき、このときから1か月が満了する日は、起算日が令和7年5月31日となり、最後の月である1カ月後の6月の応当日は6月31日と存在しない日となる。このように最後の月に応当する日がないときは、その月の末日に期間は満了する。よって、6月30日が期間の満了日となり、この6月30日の終了をもって支払期限となる。7月1日の終了をもって支払期限となるものではない。